高度専門職の年収ポイント――「見込み年収」に含められるもの・含めにくいもの

在留資格「高度専門職」の取得や、高度人材ポイント特例を用いた永住許可申請において、合否を大きく左右する最も配点の高い項目が「年収(報酬)」です。学歴や職歴での加点には上限がありますが、年収ポイントは最大で40点もの高い配点が用意されているため、ここで何点獲得できるかが、ボーダーラインである70点や80点を突破するための生命線となります。 

ポイント計算を行う際、申請書に記載する年収は、過去に支払われた実績ではなく「今後1年間に所属機関(勤務先)から支払われる予定の報酬(見込み年収)」を基礎とします。この「見込み」という言葉の性質上、多くの外国人材や企業の人事担当者様が「高めの金額を書いておけば有利になるだろう」「残業代や各種手当を全て足し算して申告しよう」と安易に考えてしまいがちですが、ここに審査上の非常に重大な落とし穴があります。

出入国在留管理庁の審査官は、提出された雇用契約書や給与規程を審査要領の基準に照らし合わせ、その金額が「本当に1年間にわたり確実に支払われる担保があるか」を極めて冷徹に解体して精査します。実務において、見込み年収に「含めて良いもの」と「含めてはいけないもの」の厳格な境界線と、確実な立証方法について詳しく解説します。

 

1. 法律・審査要領の定義:「所属機関から受ける確実な報酬」の原則

入管法(法務省令:高度専門職の基準を定める省令)において、ポイントの対象となる報酬は「日本の公私の機関から、特定の活動の対価として受ける報酬」と厳格に定義されています。

この定義について、審査要領の内部基準ではさらに踏み込んで、「契約上、支給が義務付けられており、業績や個人の裁量によって変動しない、固定的かつ確実な金銭」のみを年収として算定することを原則としています。つまり、「もらえるかもしれない不確定な収入」をどれだけ積み上げても、審査官はそのすべてを年収ポイントの計算から除外し、基本給などの確実な数字だけで引き算を行ってポイント不足による不許可を下します。

 

2. 算定に含めて良いもの:契約上「支給が義務付けられている」報酬

見込み年収に算定し、ポイントの加点対象として正々堂々と入管へ主張できる報酬は、以下の通り明確に限定されています。

基本給(月給・年俸ベース): 雇用契約書や賃金条件明示書に「月額〇〇万円」と明記されている純粋な基本給の12ヶ月分。

固定的・定期的な手当: 役職手当、資格手当、職務手当など、その役職やステータスにある限り、毎月必ず一律の金額が支給されることが規程上決まっている手当。

契約上明示された最低保証賞与(ボーナス): 会社の業績に関わらず、「年間で最低〇ヶ月分を支給する」と雇用契約書にハッキリと最低保証の文言が明記されている賞与。

これらは、会社が法律上必ず支払わなければならない債務であるため、入管も100%確実な年収としてポイントに加算してくれます。

 

3. 算定に含めてはいけないもの:変動要素のある手当と実費弁償

逆に、給与明細に名前が載っていても、年収ポイントの計算からは原則として除外しなければならない(含めると不許可リスクが高まる)不確定な報酬は以下の通りです。

超過勤務手当(残業代): 「今後1年間にどれだけ残業が発生するか」は神のみぞ知る不確定な要素であるため、過去にどれだけ残業代をもらっていたとしても、未来の見込み年収には1円も算定に含めることはできません。

通勤手当・旅費交通費: これらは労働の対価ではなく、移動にかかった費用を会社が補填する「実費弁償」の性質を持つため、年収ポイントの対象外となります。

完全業績連動型の賞与(ボーナス): 雇用契約書に「賞与は会社の業績および本人の評価に応じて決定する(支給を約束しない)」と書かれている場合、見込み年収の計算に会社の「平均支給実績」などを勝手に足し算してはいけません。審査官は最低保証がない賞与の額をすべて「ゼロ(0円)」として計算します。

住宅手当の罠: 毎月現金で「住宅手当として一律3万円を支給する」と規程にあれば含めることができますが、「会社が法人名義でマンションを借りて、家賃の一部を社宅として会社が負担してあげる(現物支給)」という福利厚生の仕組みの場合、その会社負担分の家賃を年収に上乗せして計算することは認められません。

 

よくある質問と実務回答

現在の私の「基本給」を12ヶ月分計算すると年収680万円で、700万円のポイント枠(15点)にあと20万円足りません。ただ、会社の契約書には「固定残業代(みなし残業代)として毎月4万5千円を支給する」と書かれています。この固定残業代は、残業をしなくても毎月もらえるお金ですが、年収に含めて計算しても良いですか? はい、固定残業代(みなし残業代)については、雇用契約書や賃金規程において「実際の残業の有無に関わらず、毎月固定的・一律に支払われることが義務付けられている金銭」であると明確に証明できれば、見込み年収に算定に含めて計算することが実務上可能です。 毎月4万5千円であれば年間54万円の確実なプラスになりますので、総額が734万円となり、無事に700万円の大台を突破して15点を獲得することができます。ただし、契約書に「40時間を超えた場合は別途支給する」等の文言が正しく入っているか、基本給と切り離されて明記されているか、労働法上の適法性が厳しく見られますので、事前に契約書の文字を確認してください。 

外資系企業で働いており、年収の契約が「基本給500万円 + インセンティブ(歩合給)最大300万円」という構造になっています。過去の実績では毎年必ずインセンティブを200万円以上もらっています。今回の高度人材申請で、年収を「700万円」として申請しても問題ありませんか?

非常に審査が厳しくなる、そのままでは不許可になる確率が高いケースです。 過去にどれだけ実績があっても、歩合給やインセンティブは「未来の確定した収入」とはみなされません。この外資系特有の給与体系で許可を勝ち取るための高度な実務対応は、会社に対して「最低インセンティブ保証書」を特別に発行してもらうことです。契約書や証明書の中に「本人のこれまでの優秀な営業実績に鑑み、今後1年間においては、会社の業績に関わらず、少なくともインセンティブのうち『150万円』については、最低額として支払うことを会社として100%保証する」という文言を社長印付きで明記してもらい、その保証された額だけを500万円に足し算して「年収650万円」として手堅く立証を行います。

日本国内のIT企業から月々40万円の給与をもらっていますが、同時に海外(母国)にある親族の会社からも、リモートでの顧問報酬として毎月「2,000ドル(約30万円)」を海外口座で受け取っています。この海外からの副収入も合算して、日本の高度専門職の年収ポイントに使えますか?

原則として、海外の法人から海外の口座へ支払われている報酬を合算してポイントに使うことはできません。 高度専門職の年収基準(法務省令)は、あくまで「日本国内の指定された所属機関(勤務先)で行う高度な活動の対価」としての報酬に限定されているからです。海外の会社からの収入は、現在のあなたの就労ビザの活動外の収入(グレーな副業)とみなされるリスクすらあります。ただし、もしその海外法人と日本の勤務先との間に「強固な資本関係(親子会社やグループ企業)」があり、海外法人からの報酬も含めて「日本への出向命令に基づき、一体として支払われている労働の対価である」ことが契約書や送金証明で100%立証できる場合に限り、例外的に合算が認められる審査要領の救済規定が存在します。

 

行政書士鈴木茂事務所からのメッセージ

高度専門職の年収ポイントは、1点の計算ミスや書類の表現の曖昧さが、「ポイント不足による一発不許可」という最悪の結果に直結する、非常にシビアな世界です。「会社が年収見込証明書を800万円で出してくれたから安心だ」と思っていても、その内訳の規程が入管の求める基準(確実性)を満たしていなければ、審査官の引き算によって一瞬でボーダーラインを割り込みます。 

当事務所では、あなたがこれまでに会社と結んできた雇用契約書や、社内の分厚い賃金規程の全ページを、審査官と同じ厳しい目で事前に徹底的に読み解きます。どこまでの手当が確実に加算できるのかを仕分けし、もし点数が足りない可能性があるならば、会社の人事部とも真摯に交渉を行い、法律の枠内で「最も打率が高く、1点の文句も言われない完璧な年収の立証書類」を再構築します。エリートであるあなたの日本でのステータスを確固たるものにするために、プロの知恵を結集してサポートいたします。 

 

公的リファレンス・参照一次情報:

o 出入国在留管理庁「高度人材ポイント制における『報酬』の算定基準に関する省令」

o 入国審査要領(高度専門職ビザの報酬要件における固定的手当と変動手当の識別マニュアル)

o 労働基準法第15条(労働条件の明示義務・みなし残業代の適法性判定基準)

 

【この記事の執筆・監修者】

申請取次行政書士 鈴木 茂(すずき しげる) 東京都世田谷区大原(京王線・井の頭線沿線エリア)を拠点とする、在留資格・ビザ申請専門の行政書士。 永住許可、国際結婚、高度専門職などの複雑な申請において、入管の審査ポイント(事実の証明と資料の整合性)を的確に押さえたサポートを得意とする。忙しい外国人ビジネスパーソンやカップルに向けた、フットワークの軽い伴走型の支援が強み。

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